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[Ⅶ293] 老いの意味論(1) / 伸びたゴムが元に戻らない‥
鑑三翁は1930(昭和5)年3月にこの世での仕事を終え帰天している。69歳。当時としては長寿である。私はその年齢をとっくに越したが、最近心身に「老化」の兆候が迫ってきてかなわない。目にも歯にもあそこにもどこにも不具合が来ている。ふと私を襲っている老化の兆候は鑑三翁も経験したのだろうかと思う時がある。鑑三翁は心臓の病を持っていたから、その不快な身体症状は耐え難かったのではないかとも推測できる。それらの日々については鑑三翁の日記に記されているが、それは病気の症状に関してのものであり「老い」の実感を殊更記しているのではない。しかし神から遣わされた天才預言者にも老いは確実に到来していたはずである。鑑三翁の「老い」に関する論稿は少ないが、これに関しては後日触れることにする。※妻と朝の軽食をとり寝室兼書斎でラジオ体操...[Ⅶ293]老いの意味論(1)/伸びたゴムが元に戻らない‥
ところで人間にはなぜ老化が起こるのだろう。ここで免疫学の権威故多田富雄氏の著書『生命の意味論』(新潮社、1997)をのぞいてみた。以下記述内容は多田富雄氏のこの書籍からの部分的引用と要約で構成した原稿であることをお断りしておく。多田氏のこの書籍の執筆当時と比較すれば、老化に関する生命科学的知見は増大しているのだろうが、少なくとも「老化」に関する決め手となる知見は発見されてはいないと思う。※「老化がなぜおこるのか」に関する生命科学の定説は未だにないといっていい。ただし少なくとも幾つかの仮説がある。以下の五項目だ。(5-1)その一つが「老化のプログラム」説。老化はゲノムの中に遺伝的にプログラムされているはずだ。時間とともにそのプログラムが発現してゆくことで全ての細胞は老いて、個体は遺伝的にセットされた寿命内で...[Ⅶ295]老いの意味論(3)/老化の科学(1)
駅や歩道橋の階段が恐ろしい。かつては一段おきにも登っていた駅の階段がアルプスの山のように思われ一段登るごとに息をつくようになった。でもまだ登りの階段はいい。下りの階段は手すりにすがりながら一段一段恐る恐る下る。一段踏み外したら奈落の地獄に転げ落ちることになることを知っている。数日前のこと。午後には日課となった周辺を散歩していた(妻はこれを徘徊と言っている)。私の数十メートル前を白い上下の運動着を身に着けた年配らしい男が歩いていた。歩きの歩幅は私の方がやや広いので、彼に追いつきそうになった。彼は街路樹の木陰の先を歩いていたのだが、突然視界から消えた。はてどこへ消えたのか‥と思っていたら彼は一段低くなった歩道の窪みにうつ伏せのまま倒れていた。彼が起きようともしないので異変を感じて声をかけた。返事もない。そこで...[Ⅶ294]老いの意味論(2)/老いは哀しや‥
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